解体工事の際はアスベストの除去工事が必要だと聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
アスベストは現在では人体に重大な健康被害を引き起こすものとして知られるようになり、法律でも使用が厳しく制限されています。
そのため、近年に建てられた住宅でアスベストが使用されていることはほとんどありません。
しかしアスベストが使用されている古い建物の解体工事の際には、その飛散を防止するために法律を遵守して適切な除去および処分を行わなければなりません。
そこで本記事では、解体工事前に行うアスベストの除去工事の流れと注意点について詳しく解説します。
アスベストとは天然に採取される鉱物の一種で、石でありながら軽い綿状の性質を持つことから、石綿(せきめん、いしわた)とも呼ばれています。
耐火性・断熱性・電気絶縁性に優れていて比較的安価であったことから、一時期は住宅を建築する際に非常に重宝されました。
国内では1975年くらいまでに建てられた建築物に、断熱材、防音材、保温材、屋根材、壁・天井材などとして広く使用されています。
アスベストは安価な上に効果が得られるため、以前は住宅をはじめとするさまざまな建築物に使用されていました。
しかし空中に飛散したアスベストの石綿繊維を長期間吸い込んでいると咳や呼吸困難などの症状があらわれ、やがては肺がんなどの重大な健康被害を引き起こすことが明らかになりました。
アスベストによる健康被害はすぐには症状があらわれず、15年以上の潜伏期間を経て発症するので、サイレントキラーとも呼ばれています。
そのようなことからアスベストの使用をが控えるようになり、2006年以降に建てられた建物については、アスベストの使用が法律で厳しく制限されるようになりました。
すでにアスベストが使用されている建築物の解体作業や改修工事を行う場合にも、「大気汚染防止法」などの法令や各地方自治体の条例に基づき、適切な処理を行う必要があります。
建築物へのアスベスト使用に関する規制は、1975年から2006年までの間に何度か改正が行われてきました。
しかし2006年までは完全に使用が禁止されていたわけではなく、2006年までに建てられた建築物についてはアスベスト含有物件である可能性があるといえます。
1975年 | 含有量が5%を超えるものの吹き付け禁止 |
1995年 | 含有量が1%を超えるものの吹き付け禁止 |
2004年 | 含有量が1%を超えるものの製造、輸入、提供、譲渡、使用の禁止 |
2006年 | 含有量が0.1%を超えるものの製造、輸入、提供、譲渡、使用の禁止 |
アスベスト使用物件の見分け方については、以下の記事で詳しく解説しています。
アスベスト(石綿)は安価でありながらも、耐火性、断熱性、防音性、絶縁性といったさまざまな機能を有しています。そのため、近年まで建物のさまざまな場所に使用されてきました。
特に住宅にあっては、以下の部位に使用されている可能性が高いといえます。
アスベスト使用の有無は専門業者に調査を依頼して確認してもらうことが義務付けられていますが、その前段階として自分で確認できる方法があります。
確認方法は次の2つです。
建物は建築士が作成した図面を元に施工されており、図面には具体的にどのような建材を使用するのかが記載されています。
その商品名を調べて、国土交通省や経済産業省、日本石綿協会などから発表されているアスベスト含有建材の商品名と照合することで、アスベスト建材使用の有無が確認できます。
アスベスト含有の可能性が高いと判断された場合には、専門的な調査機関や専門業者に調査を依頼する必要があります。
設計図書で建物の竣工時期を確認するのもひとつの方法です。
2006年以降に建てられたものであればアスベストが使用されている可能性は極めて低いといえます。
しかし1955年から1975年の間に建築された建物には、アスベストが使用されている可能性が極めて高いといえます。
また1970年から1988年頃頃に建てられたものについては、アスベスト含有の吹き付けロックウールが使用されている可能性があります。
アスベストを含む建物の解体工事を行う場合には、事前に必要書類を提出して届け出を行い、適切な手順でアスベストの除去作業を行わなければなりません。
この章では、その流れについて詳しくご紹介します。
アスベストが使用されているかは、解体予定の建物の図面や設計図書が残っていれば設計図書に記載されている建物の仕様や使われている建材名を見て判断することができます。
また、建物の築年数からある程度判断することもできますが、図面調査や築年数だけで判断してしまうのは非常に危険であるため、実際に現地に出向いて現地調査を行います。
現地調査では、対象となる建物に使用されている建材などを調べて判断を行います。
また、建物が鉄骨造で鉄骨に耐火被覆が吹き付けられている場合には吹き付け材を採取し、専門検査機関に分析を依頼します。
特に規制を受ける石綿(アスベスト)と現在でも使用されている岩綿(ロックウール)とでは肉眼では区別がつかないので要注意です。
分析方法にはアスベストの有無を調べる定性分析とアスベストの含有率を調べる定量分析があり、定量分析で含有率が0.1%を超えていると規制対象となります。
また、法改正によって令和3年(2021年)4月より、アスベスト調査を行うことが義務化されました。
詳細は以下の記事で詳しく解説しています。
アスベストを含んだ建物でずさんな解体工事が行われると広範囲に渡って大気中にアスベストを拡散させてしまうことにもなり、作業員や近隣住民に健康被害を与えてしまいます。
これを防ぐため、国土交通省ではアスベスト飛散の危険性に応じた作業レベルを定めています。
作業レベルは1~3までの3段階に分けられていて、数値が低いものほど危険度が高く、作業員や近隣住民に対して悪影響を及ぼす恐れが大きくなります。
(国土交通省:アスベストの飛散性・非飛散性とレベル1~3の整理)
そのため、解体業者が解体工事を行う際には、それぞれの作業レベルに合わせたアスベストの飛散防止対策を講じることが大切です。
解体工事に着手する前までに、レベルごとに必要な届け出は以下の通りです。
発じん性が著しく高い作業を指し、最も危険度が高い作業をいいます。
アスベスト含有吹き付け材の除去が該当しますが、一般の住宅で使用されていることはほとんどありません。
しかし鉄骨造の建物では、耐火性を向上させるためにアスベストとセメントを混合したものを柱や梁などに吹き付けています。
発じん性が高い作業でアスベスト含有断熱材、保温材などの除去が対象となり、レベル1に準じた対策を要します。
それぞれの届け出の提出先と期限についてはレベル1と同様です。
発じん性が比較的低い作業とされ、アスベストが含有されたスレート(屋根材)やビニル床タイルなど主に成形された建材の除去が対象です。
そのままの状態では飛散しにくいといえますが、解体を行う際に切断や破砕作業を行う場合には周囲に飛散するので注意が必要です。
届け出の期限はレベル1と同じですが、アスベスト除去工事に関する届け出は不要とされています。
解体工事着工前の近隣挨拶は、トラブルを回避し工事を円滑に進めていくためにも不可欠です。
特にアスベスト除去工事が必要になる場合には解体業者の担当者と施主が一緒に訪問し、アスベスト除去工事の方法や注意点などを近隣住民に詳しく説明しておくことが大切です。
近隣挨拶でのマナーや注意したいポイントなどについては、以下の記事で詳しく解説しています。
アスベスト除去工事を行う際には工事内容を知らせる掲示物を設置し、工事関係者以外立ち入り禁止措置や有害性の掲示などを行った上で作業を開始します。
また、建物周囲には足場を組んで養生シートで建物を覆い、作業場所を完全に隔離して解体作業中にアスベストが敷地周囲に飛散しないようにします。
そのため、通常の解体工事よりも入念な安全対策が必要になるケースが多いといえるでしょう。
さらに作業員は、作業レベルに適したマスクや保護衣、作業衣を装着して作業を行うことが法律で義務付けられています。
工事ははじめに畳、建具、住宅設備機器などの建物内部のものを全て撤去し、その後アスベスト飛散防止対策を講じながら天井、梁、壁などのアスベスト除去作業を行います。
飛散防止対策としては、水や飛散防止剤をまいて周辺の湿潤化を行った上で作業するのが一般的です。
アスベストの除去がおおむね終了したら、ほこりが舞いあがらないように十分に散水しながら屋根、外壁、構造体、基礎などを解体します。
そして建物の解体が終わったら、敷地内のごみを撤去し整地を行います。
整地の出来具合でその後の土地の価値が大きく変わってしまうこともあるので、決して気を抜かないことが大切です。
除去したアスベストを廃棄する際には、周囲に飛散しないように丁寧に取り扱うことが大切です。
アスベストは「特別管理産業廃棄物」の「廃石綿等」として収集、運搬、処分の基準が定められているため、他の廃棄物とは区別しなければなりません。
また、産業廃棄物業者に処理を委託する場合には、マニフェストの発行が産業廃棄物処理法により義務付けられているので、法律に則した方法で適切に処理します。
この章ではアスベスト解体工事の費用相場や補助金・助成金について詳しく解説します。
アスベスト建材を含んだ建物を解体したり改修工事を行ったりする場合には、アスベスト粉塵の飛散しやすさ(発じん性)による危険度に応じて、作業は3つのレベルに分類されます。
アスベスト除去費用の目安は1㎡あたり10,000~85,000円といわれていますが、危険度が高いレベル1と危険度が低いレベル3とでは除去の難易度に大きな価格差が生じます。
レベルの違いによるアスベストの解体・除去費用の相場は次のようになります。
最も危険度(発じん性)が高い危険度レベル1のアスベストの代表的なものには、アスベスト含有吹き付け材があります。
解体の際には繊維が広範囲に飛び散る可能性があるため、作業場所の隔離や高濃度の粉じん量に対応したマスク、保護衣の着用など、厳重なばく露防止対策が必要です。
そのため解体費用は、1㎡あたり1.5〜8万円前後と高額となります。
レベル2はアスベスト含有保温材やアスベスト含有断熱材などをいい、建物の内壁や配管、柱などに多く施工されています。
レベル1のアスベスト含有吹き付け材のようにこびりついているわけでなないため、作業方法によっては発じん性が低くなります。
しかしアスベストの含有量が多い点や、一度崩れると発じん性が高くなる点を鑑みると高いばく露防止対策を必要とするレベルです。
解体費用の相場は1㎡あたり1~6万円程度になります。
危険度レベル3のアスベストは屋根用化粧スレートやサイディング外壁材、ボード類などが硬く板状に成形されているものが多く、発ガン性は他のレベルよりも低いといわれています。
しかし破砕や切断等の作業を行う際には発じん性を伴うので、水をかけながら作業を行ったり、発じんレベルに応じた防塵マスクを着用したりすることが必要になります。
除去費用の相場は1㎡あたり3,000円程度で、30坪程度の住宅の屋根で10~20万円程度、外壁であれば20~30万円程度を見込んでおくと良いでしょう。
民間建築物に対するアスベスト調査については、多くの地方公共団体が補助金を支給しています。
例えば、綿状のアスベスト吹き付け材が施工されている建築物の所有者を対象に、費用の一部を補助する自治体もあるようです。
アスベストの除去工事には、一般の住宅でも数十万円の費用が発生します。
解体工事にかかる費用と合わせるとかなりの負担になるため、解体せずに空き家のまま放置してしまうことも多いようです。
国はこの状況を改善するために、アスベストの調査費用だけでなく、アスベスト除去のための補助制度を設けています。
自治体によって各種条件が異なりますが、まずは解体予定の住宅がある自治体の窓口に問い合わせてみると良いでしょう。
アスベストが使用された建物の解体工事では、通常の解体工事の他にアスベストの除去が必要になります。
しかしアスベストの除去工事では費用が非常に割高になってしまうことが少なくありません。
ここでは、アスベスト解体工事で押さえるべきポイントを紹介します。
アスベストが使用された建築物を解体するためにアスベスト除去工事から解体工事までを同じ業者に一括発注すると中間マージンが発生し、工事が割高になる可能性があります。
このような場合は、分離発注を検討してみましょう。
分離発注とは、アスベスト除去工事と解体工事をそれぞれ別の業者に直接発注することを指します。
分離発注のメリットには、工事費用のコストダウンや、業者との意思疎通が明確になること、下請けを挟まないため工事の質が上がることなどが挙げられます。
ただし分離発注をすると手続きに手間や時間がかかってしまうため、依頼主の負担もその分大きくなってしまいます。
時間がない方や手間を省きたい方は、一括発注の方が良いといえるでしょう。
また、建て替えのために建物の解体を行う場合で、解体工事をハウスメーカーや住宅会社に依頼する場合も同様です。
費用をできるだけ節約したい方は分離発注を検討してみましょう。
アスベストは処理では厳格な管理が必要になるので、格安な値段で解体工事や引き取りを行っている業者には注意をしてください。
これらの業者は不法投棄などの違法行為を行う危険性があります。その場合には発注者としての責任は免れないので、十分に注意することが大切です。
廃棄物の不法投棄については、以下の記事を参考にしてください。
以上のようにアスベストを含有している建物は、解体時に近隣住民に対して健康被害を与えてしまう可能性があります。
そのため、アスベストが使用されている可能性のある建築物を解体する場合には事前に解体業者に相談した上で必要に応じて専門の検査機関に調査を依頼することが大切です。
近隣トラブル防止と追加工事費用の発生を抑えるためにも、解体工事に着手する前にしっかりとした調査を行うようにしましょう。
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