アスベストは過去に国内の多くの建築物に使用されてきましたが、現在ではアスベストの粉じんを吸い込むことで中皮腫や肺がんなどの深刻な病気を引き起こすことがあるため、アスベストを使用した製品の製造が順次禁止されています。
また、アスベストが使用された建築物の解体工事を行う際には大気中への飛散防止対策を講じることが法律で義務付けられています。
そこで本記事では、アスベスト使用物件の見分け方や飛散防止対策、アスベストの除去工事の流れや費用相場までを詳しく紹介します。
目次
アスベストは過去に国内の多くの建築物に使用されてきましたが、現在ではアスベストの粉じんを吸い込むことで中皮腫や肺がんなどの深刻な病気を引き起こすことが知られています。
発症までの期間が長いため、国や企業による有効な対策がとられないままアスベスト含有建材が最近まで大量に使用されてきました。
そのため、アスベスト製品の製造工場、アスベスト製品が使われている建築現場で働いていた方やそのご家族などを中心に、重篤な病気で亡くなる方や長年苦しまれている方が増えています。
近年では、2020年12月に大手家具販売店の珪藻土バスマットなどの23商品に法令の基準を超えるアスベストが含まれているとして自主回収が行われた例を見ても、危険性の高さがうかがえます。
アスベストとは天然に採取される鉱物の一種で、石でありながらも軽い綿状の性質を持つことから石綿(せきめん、いしわた)とも呼ばれています。
小・中学校の理科の実験で、真ん中に石綿が付いた金網を使ってビーカーに入った水を熱した経験のある方も多いのではないでしょうか。以前、石綿はそれほど身近なものでした。
安価でありながらも加工しやすく、耐火性、耐熱性、防音性などが高いことから、昭和30年(1955年)ごろから建築材料としてさまざまな建築物等に用いられてきました。
しかしアスベストのばく露後、数十年を経て発症する中皮腫や肺がん等の重篤な疾病による健康被害が大きな社会問題になりました。
そのため、日本国内ではアスベストを使用した製品の製造が順次禁止されています。
また、アスベストが使用された建築物の解体工事を行う際には大気中への飛散防止対策を講じることが法律で義務付けられています。
一方で、アスベストと似ているものにロックウールがあります。
ロックウールは「岩綿(がんめん)」ともいいアスベスト(石綿)を連想しがちですが、まったくの別物です。
ロックウールは玄武岩、鉄炉スラグ、石灰などが原料となる人造の鉱物繊維で、天然繊維の鉱物であるアスベストとは異なるものです。
最大の違いは繊維の形状で、ロックウールの単繊維径が3~10μ(ミクロン)であるのに対し、アスベストは0.02~0.35μほどの細かな繊維です。※1μ=1/1,000mm
ロックウールには発ガン性が確認されておらず、アスベストの代替品として広く使われるようになったもので、現在でも新築の建物に使用されています。
一般住宅でアスベストが使用されている可能性があるのは、天井材、壁紙、ビニル床タイル(Pタイル)、配管の保温材、外壁材、屋根材などです。
天井材では不燃・吸音天井板として成型版の状態で使用されているケースが多く、屋外にも屋根材、外壁材など防・耐火性能が求められる部分にアスベストを含む建材が使われている可能性が高いといえます。
具体的には以前のスレート、ケイカル板(けい酸カルシウム板第1種)、化粧石膏ボード(ジプトーン)、カラーベストなどにアスベストが含有されていました。
しかしアスベストは製品として設置されている間は安定状態であり、周囲に飛散してしまう危険性は極めて低いといえるので、それほど心配する必要はありません。
このように、天井材、屋根材、外壁材などの成型品に含有されているアスベストは解体工事などで周囲に飛散させない限り危険性はほとんどないといえるでしょう。
万が一身の回りに疑わしいものがあっても、慌てずに対処することが大切です。
アスベストに強い業者を見つける方法
アスベストは燃えないことから、不燃材料として屋根材や外壁材、キッチン廻りの内装材として、さらに気密性が高いことから断熱材や保温材、吸音材として幅広く使用されてきました。
また、比較的安価で加工が容易なこともあって、建築資材として非常に重宝されていたといえます。
アスベストは非常に細かい粒子なので、アスベストを含有した建材を加工や破壊する時に大気中に飛び散り、それを人が吸い込むことで肺に長期間留まってしまいます。
多くのアスベストを吸い込み続けると徐々に灰の中に溜まっていき、何十年も経過してから石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚などを発症するので、サイレントキラーとも呼ばれています。
そのため、アスベスト製品の製造工場に勤務していた方やアスベストを含む建材の施工に関わっていた方、およびアスベスト建材が使用されている建物の解体工事を行う人と近隣の方などに、健康被害を及ぼす可能性があるといえます。
建物にアスベスト(石綿)が使用されているかどうかを一般の方が見ただけで判断するのは不可能でしょう。
比較的判断しやすいとされる吹き付けで使用されている場合であっても、現在でも使用されているロックウール(岩綿)とは見た目がほとんど同じなので、一般の方が見ただけで区別することはできないでしょう。
しかし専門家に調査を依頼する前に、自分でできる簡易的な確認方法もあるので紹介します。
新築時の設計図書が残っている場合には、そこから確認できる可能性があります。
矩計図(かなばかりず)から確認する方法のほかに、特記仕様書や仕上げ表があれば、そこに使用している建材名や商品名が記載されています。
国土交通省・経済産業省の「石綿(アスベスト)含有建材データベース」や各メーカーのホームページなどには石綿含有建材の商品名と製造年等が公表されているので、これと照合することで確認します。
アスベストの使用が開始されたのは1941年(昭和16年)ごろからといわれ、1955年(昭和30年)ごろからはさまざまな建築物に広く用いられるようになりました。
その後、さまざまな法改正を経て現在に至っています。主な法改正の変遷をまとめると、以下のようになります。
1960年 | じん肺法制定 | じん肺検診についての規定(石綿も対象) |
1971年 | 労働基準法特定化学物質等障害予防規則(特化則)制定 | 製造工場が対象 局所排気装置の設置 測定の義務付け |
1975年 | 労働安全衛生法施行令改正 | 名称等表示 (石綿5%超対象) |
1975年 | 特化則の大改正 | 石綿5%超対象 取扱作業も対象 石綿等の吹付け作業の原則禁止、特定化学物質等作業主任者の選任、特殊検診の実施等 |
1995年 | 労働安全衛生法施行令の改正 | アモサイト、青石綿の製造等禁止 |
1995年 | 労働安全衛生規則の改正 | 吹付け石綿除去作業の事前届出 |
1995年 | 特化則の改正 | 石綿1%超まで対象が拡大 吹付け石綿除去場所の隔離、呼吸用保護具、保護衣の使用 |
2004年 | 労働安全衛生法施行令の改正 | 石綿含有建材、接着剤等10品目が製造等禁止 |
2006年 | 労働安全衛生法施行令の改正 | 石綿0.1重量%超の製品の全面禁止(一部猶予措置あり) |
2006年 | 石綿障害予防規則の改正 | 規制対象を石綿0.1重量%超に拡大 一定条件下での封じ込め、囲い込み作業に対する規則の強化等 |
2012年 | 労働安全衛生法施行令等の一部を改正する政令 | 石綿0.1重量%超の製品の禁止の猶予措置を撤廃 |
アスベストの使用は上記のように、法改正の変遷によって年々厳しくなりました。
しかし、1975年よりも前に建てられた建物には大量のアスベストが含まれている可能性があります。
一方、国内におけるアスベスト使用のピークは国土交通省の資料によると1970~1990年代とされていて、これらの時期に建てられたものにはアスベストが使用されている可能性が非常に高いといえるでしょう。
また、可能性は低いものの、2004年以前に建てられたものにはアスベスト含有建材が使われていることが否定できないことがわかります。
アスベスト調査の最も確実な方法は、専門の調査機関に依頼をする方法です。
費用は石綿の有無を確認する定性分析で約2万円~6万円、含有量の確認まで行う定量分析の場合は約4万円~10万円が相場です。
建築のプロでも目視と新築時の年代だけで判断するのは難しいので、100%確実なのはこの方法しかありません。
一方、アスベスト検査会社は国内に100社以上あるといわれていますが、会社によって検査の精度や検査体制にはバラツキがあるようです。
信頼できる検査会社を探すためには、自分でインターネットの情報などを見て調べる方法や、住宅会社や解体業者を通じて紹介してもらう方法もあります。
また、法改正によって令和3年(2021年)4月から解体工事を行う前にアスベスト調査を行うことが義務化されました。詳細は以下の記事を参考にしてください。
解体エージェントで専門業者を紹介しています
アスベストの飛散防止対策として最も確実なのは完全にアスベストを除去してしまうこと(除去工法)ですが、すぐに除去することができない場合には次の2つの選択肢があります。
アスベストが露出している部分の外側から非アスベスト建材(板材、ボード等)で覆って、完全に密封してしまう工法です。
リフォーム工事を行う際などに囲い込み工法を行うことで、一定の効果が期待できます。
建物内に存在するアスベストに薬剤を吹きかけて表層面を覆い、飛散しないように固めて封じ込める工法です。
これにより外側からアスベストの飛散を防止します。
いずれの工法も完全に除去するのと比べて工事費用が抑えられるメリットがありますが、アスベストの飛散を100%防げるわけではないので注意が必要です。
100%アスベストの飛散を防止するためには建物ごと解体してしまうか、除去工事を行う方法しかありません。
特に飛散性の高いアスベストの場合には、安全面を考慮すれば完全に除去してしまうのが最善の選択肢といえます。
この章ではアスベスト除去工事についてご紹介します。
建物を解体せずにアスベストの撤去のみを行うのであればアスベスト除去の専門会社に、建物を丸ごと解体してしまうのであれば解体工事業者に依頼することをおすすめします。
解体工事業者でも、アスベストを含んだ屋根材や外壁材等のレベル3の建材であれば自社で除去可能なことがほとんどです。
なお、業者選びの際は2~3社から相見積りを取得して、内容をよく比較検討しましょう。
アスベスト除去工事の流れはおおむね次のようになります。
ここではアスベスト建材が使われている建物を丸ごと解体する場合について紹介します。
現地調査 |
↓ |
施工計画の作成 |
↓ |
アスベスト解体工事の届出(都道府県知事、労働基準監督署) |
↓ |
工事着工前近隣挨拶 |
↓ |
引き込み配管、配線の撤去 |
↓ |
足場の組み立て、養生 |
↓ |
建物内部の撤去(畳、建具、住宅設備機器、残置物等) |
↓ |
アスベスト除去 |
↓ |
建物本体の解体 |
↓ |
廃材の分別、搬出 |
↓ |
整地、片付け |
解体工事が終了したら、施主の立会検査を行って完了です。
アスベスト除去工事の流れについては、以下の記事を参考にしてください。
アスベスト除去工事の費用相場は、処理面積に応じて以下のようになります。
300㎡以下 | 2万円/㎡~8.5万円/㎡ |
300㎡~1,000㎡ | 1.5万円/㎡~4.5万円/㎡ |
1,000㎡以上 | 1万円/㎡~3万円/㎡ |
建物の形状、天井高などの条件により除去費用に大きな差が生じます。
そのため、必ず現地を確認の上で正確な見積りを提出してもらってから業者を選ぶことが大切です。
なお、建築物の吹付けアスベスト等の除去、囲い込み、封じ込めについては国の補助金制度を利用することができます。
ほかにも市町村から補助金が出る場合があるので、一度確認してみると良いでしょう。
1分で自宅の解体費用の想定金額が分かる
建物にアスベスト(石綿)が使用されているかどうかを一般の方が見ただけで判断するのは不可能です。
専門家に調査を依頼する前に、自分でできる簡易的な確認方法は以下の2つです。
ただし、アスベストが使用されているかを確実に判断できるのは専門家による調査しかありません。
そのため、解体工事をする場合や、アスベストの使用が疑わしい場合は専門家に調査を依頼しましょう。
関連記事:
\ 見積もり後のお断りも大丈夫 /
2022年04月05日
住宅の解体工事を行う際には、解体工事の前に浄化槽の汲み取りが必要です。 汲み取りを行わないまま解体工事をしてしまうと溜まった生活排水が地下に流れ出てしまい、地下水や土などに悪影響を与えてし...
2022年04月05日
建物の解体を検討しているのですが、建材にアスベストが含まれていた場合は解体費用が高額になると聞いたため、アスベスト含有の有無を自分で調べる方法が知りたいです。 アスベスト含有の有無は建物の築年...
2021年04月23日
家屋の解体工事は一般の方でも何となくイメージできると思いますが、駐車場の解体工事となるとイメージできる方が少ないのではないでしょうか。 駐車場にはアスファルトやコンクリートで舗装されただけの...