解体工事の際は騒音や振動が発生することから、近隣住民との間で大きなトラブルになることもあります。
しかし事前にある程度の対策を行えば、騒音や振動から来るクレームを防ぐことができます。
そこでこの記事では、解体工事について騒音・振動の基準やその対策方法、クレームがきてしまったときの対処法まで詳しく解説します。騒音・振動に関する法律も併せて説明しますので、参考にしてみてください。
目次
環境省が行った令和元年度の騒音規制法等施行状況調査によると、日本国内の騒音に関するクレーム件数の中で圧倒的に多いのが建設作業に対するクレームです。
全体の38.5%を占めています。(15,726件中6,062件)
建設作業を行う上で騒音は避けることはできませんが、周辺住民からクレームを受け事業者が対応を迫られることで、工事の進捗に悪影響を及ぼすこともあります。
さらに過去の裁判において、解体工事中の騒音に対して事業者に賠償を命じた事例もあります。
解体工事中は大きな騒音や振動が発生しますが、建物を壊す際にびょう打機やくい打機を使用する場面もあり、ある程度仕方ないといえます。
しかし騒音対策や振動対策をとるかどうかで、近隣住民とのトラブルを防ぐことができます。
解体工事の騒音は少なからず近隣住民のストレスとなり、限界を超えてしまえばクレームから大きなトラブルへ発展する可能性があります。
そうなってしまえば、せっかく解体して新築しても、その後気まずい近所づきあいをしなければなりません。
また、空き家の経年劣化から良かれと思い解体工事を依頼したにも関わらず、逆にトラブルになってしまっては元も子もありませんよね。
そこで騒音規制法や振動規制法では、明確な基準が定められています。この2つの法律を理解しておくと、大きなトラブル回避へとつながります。
解体工事で発生する騒音や振動は仕方ないとはいえ、これらを原因に体調を崩す人もいます。
そのため、解体工事をする業者だけでなく施主自身も、環境省が定める騒音規制法と振動規制法について知っておく必要があります。
●目的 |
工場などの事業活動や建設工事、自動車などから出る騒音の許容限度を定め、相当範囲の生活環境の保全と、国民の健康保護を目的とする。 |
●建設作業騒音について |
建設作業における、くい打機など著しい騒音を発生させる作業を規制対象にしている。 環境大臣が作業時間帯や日数、曜日等の基準を定め、都道府県知事等が規制地域を指定し、市町村長が必要に応じて改善勧告等を行う。 |
●目的 |
工場などの事業活動や建設工事、道路交通による振動の要請限度を定め、相当範囲の生活環境の保全と、国民の健康保護を目的とする。 |
●建設作業振動について |
建設作業における、著しい振動を発生させる作業を規制対象にしている。 以下騒音規制法と同様。 |
騒音や振動について、法律による規制があるのは理解できたと思います。
では次に、音の大きさや発生する時間帯、どれくらいの振動が対象となるのかなど基準を見ていきましょう。同じ時間でも、曜日によって違いがあります。
まず、騒音の基準値は85デシベル(㏈)です。
一般的に音の大きさが90デシベル以上だと会話が成り立たないとされていて、人がうるさいと感じるのは70デシベル以上だといわれています。
音の大きさの例
ジェット機のエンジン音 | 120㏈>聴力機能に障害が起こるレベル |
地下鉄の構内 | 100㏈>きわめてうるさいレベル |
直近の犬の鳴き声 | 90㏈>きわめてうるさいレベル |
直近のセミの鳴き声 | 70㏈>うるさいレベル |
家庭用エアコンの室外機 | 50㏈>普通レベル |
図書館内 | 40㏈>静かレベル |
騒音規制法では、人がきわめてうるさいと感じる一歩手前のレベルを基準としていることになります。
また、振動の基準値は75デシベルです。
解体工事では夜7時から朝7時までの夜間は基本的に作業禁止となっています。最大作業時間は10時間で、連続して6日を超えての作業はできません。
ただし騒音や振動の基準値を一瞬超えたからといって、すぐに問題になることは少ないでしょう。
解体工事作業の中で瞬間的に基準値を超えることはよくあり、継続的に超えなければ見逃される場合がほとんどです。
解体工事で発生しやすいトラブルについては、以下の記事を参考にしてください。
解体工事中の騒音や振動は避けられません。
しかし法律によって規制されているため、際限なく大きな音や振動を発生させて良い訳ではありません。
騒音規制法では、解体工事における騒音レベルを85デシベルまで、振動については75デシベルと定めています。
日常生活で感じる音と比較すると、地下鉄の車内やピアノの音が80デシベル、カラオケボックスの客席が90デシベルなので、騒音規制法で定められた85デシベルはこれらの中間の音といえます。
騒音規制法は生活環境を保全し国民の健康の保護に資することを目的とする法律なので、解体業者はその基準内で工事を行う必要があります。
そのため、基準が守られない場合には市町村長が解体業者に対して改善勧告等を行うことができます。
クレームを言ってはならないという決まりはありませんが、クレームの対象となる騒音が法律上問題なかった場合、業者にはクレームに対処する義務はありません。
つまり法律の上で合法であれば、それは対応をお願いするレベルとなってしまいます。
どのような工事の騒音が法律上合法であるのかなど、業者へクレームを入れる際に確認しておきたい点を解説致します。
建築工事のクレームには、工事の日時に関するものが少なくありません。
環境省が定めた騒音規制法によると、一般的な住宅地で工事を行う場合の作業時間は1日あたり10時間以内で、作業可能な時間は7時~19時の間(第1号区域)となっています。
また、日曜日と国民の祝日には工事を行うことが禁止されていて、作業期間は連続6日を超えないこととなっています。
以上のことから、下記のケースでは法律上違法になるため、解体工事についてクレームを入れることができます。
解体工事などの建築工事中は騒音が発生してしまうため、環境省が定めた騒音規制法では工事中に発生する騒音レベルの上限を定めています。
これにより解体工事中の騒音が一定時間85デシベルを超えている場合には法律上違法になるので、施主や施工業者にクレームを入れることが可能です。
ただし瞬間的に騒音が発生している場合は、違法と判断されない場合もあります。
騒音値はandroidやiPhoneのアプリで計測することができます。
解体工事の音がうるさいと思った時はご自身で計測し、上記の基準を超えているか否かを確認した上で、解体工事にクレームを入れるか判断してください。
違法でない場合も、クレームを伝えることは可能です。
隣家の解体工事が違法な時間や曜日に工事をしていた場合や、騒音レベルを計測してみたら上限値を大きく超えていた場合には、最初に誰にクレームを伝えれば良いのでしょうか。
最初に施主にクレームを伝えることで施主から解体業者に対して連絡が入ります。
その際、業者にとっては「お客様からお願いされた」と認識されるので、対応してもらいやすいといえます。
騒音に対するクレームの対応には、防音シートを追加で使用したり、重機を使用せずに手作業で解体したりするなど、追加で養生費や人件費がかかることがほとんどです。
追加で費用が発生する場合、実施するかどうかの判断は最終的には施主が行うことになるので、最初から施主に伝えた方が話が早いと考える方も多いです。
工事日時や騒音の大きさで法律違反をしている場合や、追加費用が発生しない範囲での対応を依頼する場合、解体業者に伝えた方が対応が早いことがあります。
クレームの対象となる騒音や工事の日程については、解体を行っている業者であれば状況理解も早く、話が伝わりやすいというメリットもあります。
騒音規制法違反なのにも関わらず、施主や解体工事業者に伝えても対応してもらえない場合には、都道府県や市区町村の公害相談窓口に相談しましょう。
明らかに法律違反の場合には、解体工事業者への注意勧告などが行われます。
各都道府県の市区町村別相談窓口の連絡先は、総務省のホームページで検索することができます。
施主が自分で解体工事を行うのではないため、施主がとれる騒音対策なんてないと考える人も多いかと思います。
確かに工事自体は業者がしますが、施主として誠意を見せておくとクレームにつながりにくいなど、考え方によって騒音対策はできるものです。
では実際に施主となったときに取れる騒音対策には何があるのか、解説していきます。
最初にできることは、依頼する業者の見積もり書をしっかり確認することです。見積もりの中に近隣住民への配慮があると分かる業者を選びましょう。
騒音や振動を減らすために散水・養生をきちんとしてくれるか、クレームが発生した場合どういう対応をするのかなどを事前に確認してください。
中には決められた作業時間を守らないような悪徳業者も存在しますので、注意しましょう。
解体工事をする前は、業者が近隣へ挨拶を行うのが一般的です。
このときできる限り施主も同行すると、近隣住民の印象はよくなります。なくてもかまいませんが、可能であればちょっとした手土産を用意すると、さらに印象アップにつながります。
そこまでしなくてもと思われるかもしれませんが、誠意を見せておくことでクレームが減るのは事実ですし、万が一クレームが発生しても大きなトラブルに発展しにくくなります。
1度顔を合わせコミュニケーションを取っておくと、近隣住民としても「少し工事に協力しようか」という気持ちになりやすいので、挨拶はとても大切です。
解体工事の近隣挨拶については、以下の記事を参考にしてください。
次に解体業者ができる騒音対策を見ていきましょう。
技術的なことですので施主には関係ないと思われがちですが、そんなことはありません。見積もりを確認するときに役立つので、知っておいてください。
まず多くの方が騒音対策と聞いて防音シート(養生シート)を思い浮かべると思います。
解体工事では粉じんの飛散防止や騒音を抑えるために、工事前に防音シート(養生シート)を設置します。
しかし義務ではないため、設置しなくても違法にはなりません。実際に設置しない業者も少なからずいますので、対策を万全にしたいのであれば見積もり段階で確認することが重要です。
また、専用の防音シートもありますので、少し出費が増えても気にならなければ業者に設置をお願いするのも1つの対策です。
解体工事はもともと慎重な作業を要するものです。密集した住宅街の中に解体する建物がある場合は、特に慎重な作業が求められます。
解体はくい打機やびょう打機など特殊な重機を使ったり、廃材を運ぶための大きなトラックが必要だったりと、大きな工事となるのが特徴です。
しかし隣家と接している部分は重機を使って作業をすると、塀を傷つけてしまうなどのトラブルが起こりやすくなります。
実際、建設作業中に隣の家の窓ガラスを割ってしまったという事例があります。
そのため、隣接するところについては可能な限り手作業をしてくれる業者が優良業者といえます。どうしても重機などが必要な作業でも、どんな対策を行うか確認できると良いでしょう。
解体工事中には騒音以外にも粉塵や振動の発生、工事車両の駐停車、職人のマナーなど、さまざまなクレームが発生する可能性があります。
そこでこの章では、騒音以外で解体工事中に発生しやすいクレームを紹介します。
解体作業中には、近隣住民から「洗濯物がホコリ(粉塵)まみれになった」「洗車したばかりの車にホコリ(粉塵)が付着した」などといった苦情が寄せられることがあります。
ホコリ(粉塵)に関するクレームを防ぐためには、近隣住民に対して事前に解体スケジュールを告知しておくことが大切です。
そしてホコリ(粉塵)が発生する時間帯には洗濯物を屋外に干さないようにお願いする、車にシートを掛けてもらうなどといった対策を業者側からお願いする必要があります。
また、解体作業中にはホコリ(粉塵)を抑える散水をこまめに行う、足場に養生シートをかけて解体する建物を覆うなどの対策を行うと良いでしょう。
これらの対策をしっかりと行うことができる業者に依頼するようにしましょう。
解体工事の際には、隣家から「工事中の振動で食器棚の中の食器やガラスが割れてしまった」「振動が子供の勉強の妨げになっている」といったクレームが発生することがあります。
解体工事では一定の振動の発生は避けられませんが、振動の影響で食欲不振になるといったケースもあります。
そのため可能な限り振動が発生しにくい工法(手作業など)に変更することが必要になります。
解体工事に使用する重機に関するクレームも、時々発生しています。
重機に関するクレームの中には「道路をふさいでしまって通行できない」「重機の搬出入時に近隣の家屋を傷つけた」など、深刻なトラブルに発展するクレームもあります。
そのような事態を避けるため、近隣住民に影響が出る可能性がある場合には事前に告知を行いましょう。
また、万一隣家を傷つけてしまった場合に備えて損害賠償保険に加入している業者に依頼することが大切です。
解体工事中には解体材を搬出するためのダンプやトラックだけでなく、職人の車が路上駐車していることがあります。
狭い路地の場合には著しく通行の妨げになり、周辺住民からクレームが発生することが少なくありません。
そのため、職人の車は近くの時間貸し駐車場や月極駐車場を利用するなどといった近隣への配慮が不可欠です。
解体工事業者に対するクレームも決して少なくありません。
「現場で働く職人のマナーが悪い」といったものから、「作業時間などの約束を守らない」「敷地内や前面道路に散らかったゴミを片付けない」といったクレームが度々発生しています。
このようなクレームは近隣住民とのトラブルの原因になることもあるので、注意が必要です。
前項では騒音や振動を減らす対策方法を紹介しましたが、ここでは実際にクレームが発生したとき、どのように行動すればいいかを解説していきます。
どれだけ対策をしてもクレームは起こってしまいます。突然発生したクレームに焦ってしまわないよう、対応方法を頭に入れておきましょう。
クレーム対応は何といってもスピードが重要です。発生したクレームは施主や業者側では取り消すことができませんので、まずは誠意を見せることが大切です。
クレームが発生したら、なるべく早く業者と一緒に事情説明に赴きましょう。
クレームは時間がたてばたつほど問題が大きくなっていく傾向があり、関係のないクレームまで引き出してしまう可能性があります。
まずは相手の話を聞き、事情を説明する、今後の改善策を伝えるといった流れで、相手の気持ちを落ち着かせていきましょう。
きちんと耳を貸し、相手の言いたいことをしっかり聞くことで、早期解決につながります。
解体工事中の中断・慰謝料の要求には基本的に応じる必要はありません。解体作業を中断する必要があるのは、裁判所から工事の差し止めを言い渡された場合と考えて良いでしょう。
逆に少しクレームがあったからといって工事を中断してしまうと、クレームが入るたび工事を中断せねばならず、作業の進捗状況に影響が出てしまいます。
慰謝料の請求についても同じで、裁判所が下した判断でなければ応じる義務はありません。また、「裁判を起こす」と言われたとしても、焦って工事を止めないようにしましょう。
騒音の基準値を少し超えたくらいでは裁判になっても見逃されることがほとんどですし、そもそも手続きをしている間に解体工事が終わっている場合もあります。
もちろん違法ではない工事が大前提で、クレームが発生したらきちんと対応する必要があります。
どんな工事を行う場合でも業者選びが大切ですが、施主だけではなく現場の近隣からもクレームが発生することが多い解体工事を行う際には、特に業者選定が重要になるといえます。
クレームの原因として共通するのが、「配慮不足」です。
特に解体工事には、騒音や振動、粉塵など、クレームにつながりやすい事象がつきものです。
そのため、解体工事の施工技術に加えて、近隣住民への事前挨拶や説明などをしっかりと行ってくれる業者かどうかが非常に大切です。
きちんと説明したつもりでも、内容に足りない部分があれば被害を受けた住民は「そんな説明を受けていない!」となってトラブルに繋がってしまいます。
もともと近隣住民との仲が良くなかったり、地域特性上の問題があり苦情が発生する可能性が高い場合には、あらかじめそのことを解体業者にも伝えておくと良いでしょう。
優良な業者の場合には、万全な近隣対策を行った上で上手に対応してくれるはずです。
近隣住民と施主の双方が気持ちよく工事を終えるためにも、業者の選定は慎重に行うようにしましょう。
解体工事では騒音が発生しますが、騒音には環境省が定めた騒音の基準値があります。この決まりを守らないと市町村から改善勧告等を受けることがあります。
騒音は解体現場で発生するクレームNO.1と言われています。
工事を依頼する施主として、解体業者がどのような対策をとるかを見積もりの段階で確認し、工事前の挨拶には施主も業者と一緒に必ず挨拶に行くようにしてください。
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