借地契約満了時や借地を利用する必要がなくなった時などには貸主(地主)に土地を返却することになり、その際には原則として建物を解体し、更地にして返還します。
このことを「借地返却」と呼びますが、借地返却にはさまざまな手続きや注意すべき点があります。
本記事では、借地返却のために更地にする解体工事の手順や気を付けるべきポイントについて解説します。
目次
借地権とは、建物を建てるために地代を払って他人から土地を借りる権利のことをいいます。
借地権には大きく分けて2種類があり、旧借地借家法に基づくものなのか、1992年(平成4年)8月に改正された新借地借家法によるものなのかで借地人の権利が大きく異なります。
1992年7月以前に契約されたものであれば旧借地借家法、8月以降であれば新借地借家法に基づいて契約締結されたものと判断できます。
旧法では借地人の権利が強く、木造などの場合には存続期間は30年(最低20年)で、更新後の期間は20年となっています。
そのため、契約期間は決まっているものの更新し続けることによって借地人は半永久的に土地を借り続けることができます。
一方、新借地借家法による定期借地権であれば、最初に定めた期間を経過した後は更新がなされません。
新借地借家法では地主側は、一定期間が経過した後には必ず土地を取り戻すことができるようになったため、土地を貸しやすくなったといえるでしょう。
借地権には賃借権と地上権の2つがあり、地上権の場合には自由に建物の売却や転貸、リフォームすることが可能です。
一方、賃借権の場合には第三者に建物を売却する際や建物の解体、リフォームなどを行う際には地主の承諾が必要になります。
ただし地上権の設置は地主の承諾が必要ですが、地主が地上権の設置に同意することはほとんどないので、一般的に借地といえば後者の借地権(賃借権)のことを指すといえます。
借地を貸主に返却する際には数多くのトラブルや、弱い立場である借主が不利になってしまうことがたびたびあります。
その中でも、明け渡し要求をめぐるトラブルや、地代の増減をめぐるトラブルなどが代表的です。
そこでさまざまな法律により基準が定められていますが、その中に借地権の更新を定めた「旧借地法」と新法である「借地借家法」があります。まずはその違いを見ていきましょう。
2つの法律には契約期間や借地権の更新手続きなどにさまざまな違いがありますが、契約をした時期によってどちらの法律が適用されるのかが異なります。
平成4年7月31日以前に契約した借地については借地法(旧法)が、平成4年8月1日以降に契約した借地については借地借家法(新法)が適用されます。
借地法(旧法) | 「借地権の存続期間」は鉄筋コンクリート造などの「堅固建物」で30年以上、木造などの「非堅固建物」で20年以上。(更新後の存続期間も同様) 契約の更新は自動更新が前提で、借地人としては半永久的に土地を借りることができる状態。 |
借地借家法(新法) | 「存続期間」が一律30年以上、更新期間は最初の更新時が20年以上、それ以降は10年以上。 一定期間が終了すると貸主に土地が返還される仕組み。 |
自分の場合にはどちらの法律が適用されるのかをしっかりと確認しておくことが大切です。
借地の賃貸契約を更新しない場合には借地権を返却する必要があり、返却方法には大きく分けて次の5つの方法があります。
借地権の返却方法として最も一般的なのは貸主(地主)に返還するケースですが、無償で返還する場合と有償で返還する場合があります。
無償で返還する場合、基本的に借地の上に存在する建物については借主が費用を負担して解体工事を行った後に、更地に戻した状態で貸主に返却しなければなりません。
土地の貸し借りをする場合には、権利金を支払うことが一般的な慣習となっています。
一方で社長などの個人が、自分で経営している法人に無償で自分が所有している土地を貸しているケースが存在しています。
土地を無償で借りた場合には、借主は貸主から借地権をもらったものとして多額の税金を支払う必要があります。これを借地権の認定課税といいます。
本来は借地権の認定課税を避けるために、借主は土地価格の6%の地代を貸主に支払う必要があります。
しかし、社長が個人の資産として所有している土地を会社に貸す場合、多くの場合は借地権の認定課税を避けるために「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出します。
これは土地を借りている法人が将来貸主に土地を無償で返還する代わりに、借地権の認定課税を受けないことを届け出る特例的な制度です。
そのため「土地の無償返還に関する届出書」がある場合には、必ず土地を無償で返還する必要があります。借地権を買い取ってもらったり、建物買取請求権を行使したりすることはできません。
借地権には価値があり、住宅地の場合には所有権の6割程度の価値を持っていることも珍しくありません。そのため、貸主に借地権を買い取ってもらえる可能性があります。
また、契約期間満了などの次の全ての要件にあてはまる場合は、貸主に対して借地上に建つ建物を時価で買い取ってもらうように請求できる権利があります。
これを「建物買取請求権」と呼び、下記の条件を満たす必要があります。
・借地契約の期間が満了したこと ・借地契約の更新がないこと ・借地に建物が存在していること |
この場合には借主は建物の解体工事を行わずにすむばかりか、逆に建物を売却してお金が入るので非常に好都合です。
ただし借主が建物買取請求権を行使できるのは、原則として貸主の都合による契約の解除や貸主が土地の継続利用を拒んでいる場合とされています。
そのため、お互いが合意の上解約する場合には建物買取請求権の行使は認められない可能性が高いといえるでしょう。
また、借主に地代の未払いや遅滞、重大な契約違反などがある場合には貸主はこの要求を拒否することができます。
契約期間中に借主の都合で賃借契約を解除する場合にも、買取請求権を行使できないので注意が必要です。
借地権は貸主への売却も可能ですが、第三者へ売却することもできます。
ただし借地権を第三者に売却する際には貸主(地主)の承諾が必要になり、不動産会社を通じて買主を探すか借地権の買取専門業者に買い取りを依頼するなどの方法で行います。
貸主とのトラブルを避け、承諾を得て円満に売却を進めるためには、不動産会社や買取業者の経験とノウハウが不可欠といえるでしょう。
借主が地主に借地を返還する際には、借地に建っている建物を取り壊して更地にする必要があります。
しかし契約期間満了などの一定の要件を満たしている場合は、借主側は貸主に対して借地上の建物を時価で買い取るように請求できる「買取請求権」を持っています。
ただし買取請求権を行使できるのは、借地権が期間満了で終了した時となります。
つまり、原則として契約の解除や地主が土地の継続利用を拒んでいる場合となるため、合意解約の場合は買取請求権の行使は認められない可能性が高くなります。
また、借主に地代の未払いや滞納、重大な契約違反などがある場合には、地主側(貸主)は買取請求権を拒否することができます。
この場合には、借主は借地上の建物を必ず解体しなければなりません。
使わなくなった借地上の建物を活用する方法のひとつには、賃貸物件として第三者に貸し出す方法があります。
借地上の建物を第三者に賃貸するだけであれば、地主の承諾は必要ありません。
ただし賃貸物件にするにあたって、大掛かりなリフォームが必要になるケースでは地主(貸主)の承諾が必要になるため、注意が必要です。
前述したように地主に無償で借地権を返還する場合や、有償で借地権を返還する際に建物買取請求権を行使できない場合には、借地を更地にして返還する必要があります。
そこでこの章では、借地を更地にするための建物の解体費用とその注意点を紹介します。
借地を返還する際の借地に建つ建物の解体費用は、原則として借主が負担しなければなりません。
そして契約書に貸主による解体業者の指定がある場合には、指定の解体業者に工事を依頼する必要があります。
この際、指定業者以外の解体業者に依頼すると契約違反になることもあります。しかし指定の解体業者の場合には、費用が高額になることが少なくありません。
貸主(地主)との交渉次第では、自分で解体業者を探すことができるようになる場合もあるので、解体費用負担などを含めて貸主と相談しながら進めていくことが大切です。
建物の解体費用の相場は建物の構造によって異なり、強固な建物ほど費用が高額になります。
建築物の構造別解体費用の坪単価の相場は、概ね次表のようになります。
建物の種類(構造) | 坪単価 |
木造 | 3万円/坪~4万円/坪 |
鉄骨造 | 4万円/坪~6万円/坪 |
鉄筋コンクリート造(RC造) | 5万円/坪~8万円/坪 |
延べ床面積30坪の住宅であれば、木造の場合は90~120万円、鉄骨造の場合は120~180万円、鉄筋コンクリート造の場合には150~240万円ほどになります。
いずれも建物本体のみの解体費用の相場です。
ブロック塀やカーポート、門扉、植栽など外構部分も併せて解体撤去する場合や、アスベストの除去が必要になる場合、地中障害を撤去する場合などには別途費用が発生します。
解体工事費用は、建物の構造や発注する解体業者によっても大きく異なることがありますが、ほんの少しの手間や工夫を惜しまないことで費用を安く抑えることができるようになります。
この章では、解体費用を安く抑えるためのポイントを紹介します。
解体する建物の中に家具や家電、日用品など残置物が数多く残っていると、それら不用品の処分も解体業者に依頼することになってしまうので、処分費用がかかってしまいます。
高額な処分費用を請求されないためにも、自分で処分できるものは自分で行うようにした方が費用を安く抑えることができます。
価値のあるものであれば、リサイクルショップやインターネットなどを活用して売却することで、収入を得られる場合もあります。
また粗大ゴミなどは各自治体に依頼して処分することで、処分費用を削減することができるでしょう。
その他では、庭木なども自分たちで可能な限り伐採しておくことをおすすめします。
解体する建物が古い場合などは、自治体の助成金や補助金制度が活用できることがあります。
これらの助成金や補助金を利用できれば、費用負担を抑えることができます。
助成金の金額は自治体によってさまざまなので、まずは地域の自治体に補助金・助成金の有無や適用条件、手続き方法などを問い合わせてみましょう。
この章では、借主が借地上に建つ建物を解体して更地にしてから地主に返還する際の解体工事業者の選び方を紹介します。
前述したように、地主があらかじめ解体工事業者を指定している場合があります。
まずは借地契約書に、解体工事業者を指定する旨の記載があるかどうかを確認してみましょう。
契約書に解体工事業者を指定する旨の記載がなければ、借主が自由に業者を選定することができます。
しかし全ての解体工事業者が解体工事から整地までをきちんと行ってくれるとは限りません。
さらには業者の所在地から現場までの距離などが見積もり金額に影響することもあります。
単に価格の安さだけを基準にして安易に業者を選定してしまうと、綺麗な状態になるまでしっかりと整地を行わなかったり、廃材の不法投棄が行われたりする恐れがあります。
また、工事中に現場の近隣からクレームが発生してしまうことにもなりかねません。
最悪の場合には、地主側との大きなトラブルに発展してしまう可能性もあるので注意が必要です。
そのため借地の返還に伴う解体工事では、地主にできるだけ綺麗な状態で土地を返却できるように、慎重に業者選定を行うことが重要です。
価格以外にも過去の施工実績や地域での評判、担当者の対応などをみながら、総合的に判断することが重要といえます。
解体工事の見積もり金額は業者によって異なり、著しく安い業者の場合には後から高額な追加工事代金を請求されてしまうことがあります。
そのため、業者を選定する際にはあらかじめ複数の業者(3社程度が望ましい)から相見積もりを取得して、見積書の内容を良く比較検討してみることが大切です。
そして見積もり書の内容に疑問点や不明点などがあれば、事前にきちんと確認しておきましょう。
貸主(地主)に無償で借地権を返還する場合や、建物買取請求権を行使できない場合には、借地上の建物を解体して更地にした状態で借地を返却しなければなりません。
そこでこの章では、借地を更地にして返還する際の手続きの流れについて紹介します。
借地を貸主に返還する際には、まずは貸主との間で借地権や建物の買い取りは可能なのか、建物の解体工事は必要なのかなどの打ち合わせを行います。
貸主に何の報告や相談もしないで家屋の解体工事を行ってしまうと後でトラブルや争いごとの原因になってしまうので、十分に注意しましょう。
また、借地上の建物を解体して更地にする必要がある場合には、更地にする期限を貸主と打ち合わせて交渉します。
貸主と土地返却の条件がまとまったら、解体業者の選定を行います。業者により解体費用が大きく異なる場合があるので、複数の業者から見積りを取得して比較検討することが重要です。
また、貸主から解体業者を紹介されることがありますが、想定外に高額な費用になってしまうこともあるので、必ず2~3社から相見積りをとるようにしましょう。
各社から見積書が提出されたら、単に見積もり金額の安さだけでなく、コミュニケーションが良好にとれて信頼できる業者を選ぶようにしましょう。
解体業者の中には不法投棄などの違法行為を行い、コストを下げている悪徳業者も存在しているからです。
ただしごくまれに賃貸契約書の中で貸主から解体業者が指定されていることがあります。そのような場合には、残念ながら貸主の意向に従うしかありません。
解体業者の選定が終わったら、業者と工事請負契約書を取り交わします。
そして解体工事中には近隣住民に迷惑を掛けることになるので、工事着工1週間前までを目安に現場近隣への挨拶を忘れずに行っておきましょう。
解体工事が終わったらきれいに整地を行って、土地を更地に戻して貸主に返却します。返却する前には、自分自身の目でもしっかりと確認しておくようにしましょう。
建物を解体してから1か月以内に、建物がなくなったことを法務局に登記する「建物滅失登記」を行います。
これをきちんと行っておかなければ、なくなった建物に対して固定資産税などが課税され続ける可能性があるので注意が必要です。
借地を貸主に返却する際には原則として借地に建つ建物を自ら費用を負担して解体し、更地の状態で返還する必要があります。
しかし状況によっては建物を解体せずに貸主に有償で返還したり、建物買取請求権が行使できたりする場合もあります。
この章では、借地を返却する際の注意点を紹介します。
借地契約が終了する際には、借主と貸主との間でトラブルが発生しやすくなります。
特に貸主に相談せず、独断で判断する際には注意が必要です。
一度トラブルが発生するとその後の手続きがスムーズに進まなくなってしまいがちなので、借主にとってはトラブルの発生を未然に防ぐことが大切です。
通常、借地を返却する際には借主が自費で更地にして返還するものと認識されていることが多いようです。
しかし借地権は貸主(地主)に有償で返還したり、貸主から承諾を得ることができれば第三者に売却したりすることも可能です。
売却をする際は貸主とあらかじめ取り決めをしておく内容もさまざまなので、貸主から承諾を得ておく必要があります。
特に貸主は借地権を売却されて新たな第三者と借地契約を締結することを望まない場合もあるので、事前に貸主としっかりコミュニケーションをとり合うことが重要です。
場合によっては貸主に借地権の第三者への売却相談をすることによって、貸主から直接借地権の購入を申し出てもらえることもあります。
貸主に借地を返却する際、自ら解体業者に依頼して借地の返還期日前に建物を解体することになります。
業者の選定から建物の解体工事が終了するまでには数か月ほどかかってしまうこともあるので、借地返却までのスケジュールを立てて計画的に準備を進めていかなければなりません。
また、建物を解体した後には「建物滅失登記」を解体後1か月以内に届け出なければならないので注意が必要です。
建物滅失登記については、以下の記事を参考にしてください。
借地に建つ建物を相続した場合には、誰も住んでいないのであれば単に地代だけを払い続けることになってしまいます。
このような場合であって今後も活用する見込みがないのであれば、相続放棄することができます。
ただし相続放棄するためには、被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内にその手続きを行わなければなりません。
一旦相続が行われると、後から相続放棄することはできなくなってしまうので注意が必要です。
一方で相続放棄した場合には、被相続人から相続できる他の全ての資産まで放棄しなければなりません。
したがって他に資産が多い場合には、慎重に判断する必要があります。
貸主に借地を返還する際には、無償で返還する場合と有償で返還する場合があります。
またその他に、貸主の承諾が得られれば借地権を第三者に売却するという選択肢や、貸主に対して建物買取請求権を行使できる場合もあります。
そして土地を更地の状態にして返却することになったら、借地上の建物の解体工事を手配しなければなりません。
建物の解体工事が完了するまでには相応の期間が必要なので、スケジュールを立てて計画的に実施することが大切です。
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